生活習慣病について
生活習慣病は偏った食事や運動不足、喫煙、飲酒、睡眠不足、生活リズムの乱れなどの好ましくない生活習慣の積み重ねが大きな原因の一つとなって引き起こされると考えられている疾患です。主なものとしては糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸値症などがあります。
これらの生活習慣病自体には初期に症状はほとんどありません。そのため、健診等で数値の異常を指摘され、生活習慣病の疑いがあってもそのままにされてしまうことも少なくありません。しかし、生活習慣病は放置されてしまうと、徐々に血管にダメージを与えてしまいます。具体的には動脈硬化を促進させてしまい、重篤な心疾患(心筋梗塞や狭心症など)や腎疾患(腎硬化症など)、脳疾患(脳梗塞、脳出血など)、さらには大動脈瘤、眼底出血などの原因となります。実は日本人の死亡原因は、元をたどれば生活習慣病に起因するものが3分の2であると言われています。
糖尿病
糖尿病にはⅠ型とⅡ型がありますが、生活習慣病としての糖尿病とされるのはⅡ型糖尿病です(Ⅰ型糖尿病は遺伝的要因やウイルス感染などによる自己免疫疾患が原因とされています)。関係する生活習慣としては過食などの食習慣、また慢性的な運動不足等で引き起こされる「肥満」が糖尿病の大きな原因の一つとなっています。「肥満」は血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の分泌低下や、インスリン抵抗性(インスリンが出ていても、うまく血糖が下がらないこと)を引き起こします。
インスリンの機能が低下すると、血液中にブドウ糖が増える高血糖の状態となります。高血糖状態が続くと、血液中の糖とたんぱく質が結びつき、糖化して有害物質となり、血管を老化させるなどして血管の内壁にダメージを与えます。これが全身の大きな血管で起こると、動脈硬化を進行させ、様々な脳疾患(脳梗塞 等)や心疾患(心筋梗塞 等)を引き起こします。また微細な血管が障害されると、主に糖尿病の三大合併症が引き起こされます。これは、放置が続けば失明の危険性が高い「糖尿病網膜症」、重症化すると人工透析も必要となる「糖尿病腎症」、足などに壊死を引き起こし、最悪の場合、切断などの処置も必要になってしまう「糖尿病神経障害」の3つです。
高血圧症
心臓から送り出された血液によって動脈の内壁を押す力のことを「血圧」と言います。この圧力が高い状態で続くと「高血圧症」(外来時の血圧測定で、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90 mmHg以上)と診断されます。血圧上昇の原因となる生活習慣としては、まず食生活における塩分の過剰摂取が挙げられます。この場合、摂り過ぎた塩分を薄めるために体内に水分が蓄積します。それが血管に流れ込んで血流量が増加することで血圧が上昇します。
そのほかには肥満、運動不足、野菜や果物(カリウムなどのミネラル)不足、アルコールの過剰摂取、さらに精神的ストレス、自律神経の調節異常なども原因と考えられています。なお喫煙は、タール・ニコチン・一酸化炭素が体内に入ることで全身の血管が収縮するため、高血圧になりやすいと考えられています。
高血圧の状態が長く続くと血管は常に張りつめた状態になり、高い圧力に耐えるために次第に厚く弾力が失われて硬くなっていきます。これが動脈硬化を促進させます。同時に血管の内径が狭くなっていき、傷つきやすくもなります。傷にはコレステロールなどが付着しやすく、さらに血管の狭窄が進み、また血圧が上昇するという悪循環に陥ります。
脂質異常症
コレステロールや中性脂肪といった「脂質」は本来体にとって欠かせないもののひとつですが、この血中濃度が基準値を超える、もしくは満たないと判定されると「脂質異常症」と診断されます。基準値は以下の通りです。
- LDL(悪玉)コレステロール値 ≧ 140mg/dL(高LDLコレステロール血症)
- 中性脂肪(トリグリセライド) ≧ 150mg/dL(高トリグリセライド血症)
- HDL(善玉)コレステロール値 < 40mg/dL(低HDLコレステロール血症)
脂質異常の状態が続くと血管の壁にコレステロール等の脂質が付着しやすくなります。それがこぶ状となることによって、血管が狭く、そして硬くなっていき、動脈硬化が促進されてしまいます。またこぶが破れて血栓となって心臓や脳の血管に詰まったりすることで脳梗塞や心筋梗塞など重篤な合併症を引き起こす場合もあります。
脂質異常症の原因としては、過食や偏食による脂質の過剰摂取、また運動不足による脂質消費量の減少、さらに喫煙やストレス、遺伝的要因などが考えられています。脂質異常症の改善には動物性脂肪を摂り過ぎないこと、食物繊維を多く含む野菜やキノコ、またEPA、DHAといった不飽和脂肪酸を含む青魚などを積極的に摂るようにすることなどの食習慣の改善が重要です。
高尿酸血症
細胞の新陳代謝などのためのエネルギーとなる「プリン体」というタンパク質を分解したときに排出されるのが「尿酸」です。血液中におけるこの尿酸の濃度(尿酸値)が、7.0mg/dlを超える高い状態が続くと「高尿酸血症」と診断されます。原因としてはレバーや煮干し、鰹節、白子など、プリン体を多く含む飲食物の過剰摂取などがあります。またビールをはじめとするアルコール飲料には尿酸値を上昇させる作用があります。
ちなみに高尿酸血症の患者さまは、男性と女性を比べてみると9:1と、圧倒的に男性に多い病気です。これは女性ホルモンに腎臓から尿酸の排泄を促進する働きがあるためと考えられており、女性ホルモンの分泌が減少していく50歳以上では男女差が少し縮まる傾向にあります。
尿酸は水に溶けにくいため、血液中の尿酸値が高い状態が続くと血液中に溜まっていきます。すると次第に針状に結晶化していき、それが関節(とくに足の親指の付け根など)に蓄積すると炎症反応が起こり、激痛を招きます。これが「痛風」です。さらに結晶が腎臓に溜まると腎臓結石となり、その結石が尿管や膀胱に移動すると、激痛を伴う発作を引き起こします。また腎臓結石が慢性化すると腎機能の低下にもつながるため、高尿酸血症の改善(尿酸値を下げる治療)が必要となります。